シラスと皇位継承 シラスが成り立つのは無私抑制の一系継承:傍系移行=天皇の国譲りによってこそ

天皇の存在意義・憲法1条で「象徴」「日本国民の総意に基く」とされる根拠は和:君民共治の感化・体現であり、神話の言葉で言えば「ウシハク」(力は正義、正義は力の覇道・収奪政治)とは別の「シラス」(対話による普遍的な理念の編み出しと感化・共有による君民一体での天道政治)となります。
そして「シラス」を担保するのが、天皇自らが皇位を私物化せずに無私抑制により傍系に渡す一系継承であり、傍系移行は神武系における時の本統から別系統への「国譲り」の意味を持ちます。

「ウシハク」(うしはく:主はく)と「シラス」(しらす:知らす・知ろしめす)を解説する論は様々にありますが、皇位継承と絡め、特に一系継承・傍系移行と絡めて解説する論はほとんど見受けません。
「シラス」と皇位継承は無関係ではなく、一系継承による傍系移行=神武皇統内における国譲りがあってこそ「シラス」は成り立つ形になります。

「民のかまど」の様に民から既得権層が収奪をする形ではない君民共治を成り立たせる意味で、既得権層の固定化を崩す仕組みが重要となります。
最高存在である天皇が皇位を私物化・独占化せずに余力を残しつつもあえて自ら傍系に皇位を移行させることによる感化・抑制の効果は非常に大きく、これによって権力構造の崩し・転換が図られます。
この傍系移行を、天意(人の生死、男が生まれるか女が生まれるか等の人為の及ばぬところ)に基き数世代毎に起こす仕組みが一系継承となります。

「シラス」を成り立たせるためには、天皇を最高存在と位置付けつつその最高存在が不定期ながら数世代毎に替わる、同じ神武系統の中で他系統に移るということが重要であり、天皇でさえ「国譲り」をすることで既得権層の固定化を防ぎ、民からの収奪体制の固定化・強化=「ウシハク」化を抑止するというのが「一系継承」の意味合いとなります。
そしてこうした和の継承、「シラス」の継承を今後も万世に渡って続けていこうという未来志向、未来への責任意識の表れが「万世一系」となります。

天皇の地位・皇位継承が直系で幾代も続くことは「シラス」の上で望ましいこと、好ましいこととは捉えられていません。
傍系移行による皇位継承があると、「皇位は預かりもの」「皇位は時の天皇一家の私物・相続物ではない」「初代神武天皇の建国から和を預かっている」「和の由来が大切」という形で「和の原点回帰」が図られる形となります。
一方、直系での皇位継承が連続し傍系移行が何代も起こらないと、皇位の由来の捉え違い・近視眼を招きやすいという意味で危惧される状況となります。直系継承化の目論見により国政が長期で停滞する状況、子供たちの給食に如実に表れるように「民のかまど」の対極の和の崩れが生じかねません。

直系の誘惑 直系連続による和の心の崩れと時代状況の変遷

ですから実際の法制上の天皇・皇族における門地的位置付けは非常に限定的であり、終身利権化や代々に渡る固定的な特権維持が出来ない仕組み、数世代毎に入れ替わるような制度設計になっているのです。
この意味で「シラス」における一系継承は、預かり世襲・制限世襲・非独占世襲となります。

一方で「ウシハク」における王位皇位の継承は、分捕りもの・獲った者勝ちの論理に相応しい形で(当初は一系でもやがて)直系継承となり、利権世襲・独占世襲となります。
西欧において王統皇統の断絶・国王の処刑・恐怖政治の歴史があったのに、日本では皇統断絶がなかった根本的な理由、王皇の位置付け・在り様の相違はこうした点に見出せます。
そもそも西欧における憲法は、王とそれに連なる貴族・既得権層による民からの簒奪に歯止めをかける意味合い、王側の権利を制限する意味合いの成り立ちとなりましょう。

「民の奔流」の恐ろしさ 王統断絶・国王処刑の西欧歴史

日本、天皇の在り様においては、そもそも「シラス」「君民共治」の理念が根幹になっての位置付け、存在となりますので、民主主義と矛盾する概念、対立する概念ではありません。
(日本においても、天皇が直接的に政治に関わる中で権力闘争の当事者となり、「シラス」というより「ウシハク」で近親婚・同族婚も含めて権力闘争をした歴史、皇族同士での殺し合いの歴史もあり、こうした中で女性天皇が生まれてきた経緯もありますので、過去の絶対是認、礼賛、無謬論というものではありません。
そうした経緯もありつつ、いかに過去を教訓にして方向転換、位置付けの転換を図り高めて来たかにこそ意味、価値があり、そうした先人の営み・積み重ね、伝統の昇華を有り難く受け継ぐ姿勢が重要と考えます。)

憲法2条における天皇の世襲規定にしても憲法14条の法の下の平等・門地差別禁止の理念とは矛盾しません。
日本の皇位継承は利権世襲・独占的な世襲ではなく、役割を預かる世襲であり権利を独占出来ない世襲・制限を受けつつの世襲(門地的な位置付け・優遇は非常に限定的)となっているからです。
この前提があってこそ、憲法1条の「象徴」「国民の総意に基く」が成り立つのであり、天皇・皇族は門地差別をしても良いといった「法の”飛び地論”」は非常に不相当な解釈となります。

そもそも皇室典範の施行(1947年 昭和22年5月3日)に際しては、明治の皇室典範の効力がなくなることにより皇族身分の根拠を失う=一般国民となる皇族(筆頭は明仁皇太子)の皇族身分を維持する意味で、皇室典範の「附則」によって”この法律による皇族とする”旨規定されています。

皇室典範 附則
② 現在の皇族は、この法律による皇族とし、第六条の規定の適用については、これを嫡男系嫡出の者とする。

このことからも明らかなように、そもそも天皇・皇族自体が本質的に日本国民であり、日本国民の中から初代神武天皇との繋がり、建国の和への原点回帰性により「皇統に属する男系の男子」の立場で皇族となり、皇位継承順に従い天皇となるというのが日本の皇位継承システム、憲法・皇室典範の根本となります。
日本の国民の中から門地=神武天皇からの繋がり:皇統に属する男系の男子により皇族となり、天皇となりますが、この世襲は非常に限定的な「制限世襲」であり、皇位・皇族身分は門地特権・直系利権として永続化は出来ないようになっていて、数世代毎に天意に基き入れ替わる制度設計になっています=皇位は預かりもの。
この意味で、天皇・皇族の身分は永続的な門地特権ではなく生まれ差別・人間差別・門地差別禁止の理念と根本矛盾しないもの、「預かり世襲」として捉えられます。
こうした制限世襲・預かり世襲による皇位継承・天皇存在・皇族身分だからこそ、和・君民共治の理念にも整合・体現するものとして憲法1条で「象徴」「国民の総意に基く」と高尚に規定されることとなります。
これこそが、憲法1条、2条と14条の整合、”飛び地”などではなく生まれ差別・門地差別禁止と根本矛盾しない世襲・象徴・天皇・皇族・皇位継承の在り方となります。

私は、神話を重んじそれ自体を天皇や皇位継承の根拠にする立場ではなく、「シラス」や「ウシハク」という言葉も積極的に用いず、今の概念・言葉として「力は正義、正義は力」「覇道」「天道」「民のかまど」「君民共治」などの文言を用いて説明するのを基本とする立場です。
しかしながら、神話の理念を否定する立場ではなく、むしろ古今東西、現在でも通用する普遍的な価値観、理想像を表現している面があることを踏まえ、先人の知恵の深さ・卓越に驚嘆しつつ、うまく活かしていく重要性も認識する次第です。

神話そのものの立ち入った話は意図しませんが、今回のような「ウシハク」「シラス」「国譲り」といった言葉、概念は、平明な形で現代の言葉、概念に置き換えることが出来、理念:和を明らかにすること、昔から繋がっている様子を明らかにすることに有効と思いますので、適宜紹介、文言づかいをしていくのが良いと考えているところです。

「シラス」の理解、捉え方も、文献や資料に当たる側、他者説明を聞く側における基本的な「和」の踏まえがあるか否かで変わってくる形となります。
「和」の踏まえがないと、本来見えるべきものが見えない、気付くべき繋がりに気付かないという形になります。
ネクタイは結べても角帯は結べない、袴を着けられない、などなどの和文化伝授の崩れがあり、あらためて衣食住の基礎根本に根差した和の心得、体得が重要となります。

そもそもの天皇の役割足る「シラス」と、天皇を天皇足らしめる根拠法則である「皇位継承方法・一系継承」が無関係であるはずはないのに、和の基本的な踏まえがないとその関係性・相互の繋がりについて思いが至らない形になってしまいます。
当然ながら「シラス」の本義の捉え方も浅くなり、「皇位継承方法・一系継承」における本義、なにを変えなにを変えないか、過去において踏襲の好例とならない教訓例とはなにかというものが見えて来ない形、理解出来ない形、誤って捉え違える形となります。

上記の様に、日本の皇位継承・一系継承は、男系で繋がれば良いという継承方法ではありません。
天皇自らが天意に基き抑制的に「国譲り」を行うことで「シラス」の体制を守り、「ウシハク」化を防ぐというのが重要となります。

現行法制において、女系天皇以前に男系女子による女性天皇自体が排除されている理由、養子が禁止されている理由も上記によるものとなります。
女性天皇や女性宮家論、養子論は、時の天皇一家が「国譲り」を拒否して狭い意味での門地独占直系私物化を図ろうというものに他なりません。安定的な皇位継承どころか、門地差別禁止の理念に根本矛盾する卑しく改変された利権存在として皇位自体・天皇の存在意義自体を損ね無意味にする大愚となります。

医学の進んだ現在において、今後は皇位継承における「男女産み分け」が議論テーマとなる局面が来るでしょう。
今でも、男系で続けば良いと浅薄に捉える層は、産み分けであっても構わないとの主張をしています。
非常に危険なことと捉えます。

「シラス」、皇位継承においては、和の心、”天意従容”が重要な価値観となります。
それを人為で曲げ、結果だけを作り糊塗するやり様は「シラス」とは対極の「ウシハク」となります。
そうした形での継承により生じた天皇が、「シラス」を感化し守る「象徴」となり得べくもありません。

皇位継承の本義、和、「シラス」:君民共治を成り立たせるための一系継承:傍系移行:天皇による国譲りの無私抑制の凜、美しい理念性、強い価値観を解さぬ者は、単に男系が繋がれば良い、皇統から男系で繋がってきたことしか読み取れないという捉えを以て、全く和に反し、皇統を破壊するようなこと、一系継承の根本的な意味を損ね無にするようなことを平気で考え、恥かし気もなく主張する形となります。
非常に恐ろしいことであり、愚かな在り様となってしまいますので、重々戒めが必要に思います。

歴史好き、うんちく好き、特定の時代の継承に詳しい・勉強しているということと、皇位継承・一系継承を理解していることとは全く別となります。
現行法制の意味を解さず、そもそもの和、君民共治、「シラス」の捉え、天意従容等の感覚もなく、単なる表面的な法則性(男系繋がり等)を以てして理解しているつもりになることは、皇位を家督相続物感覚で天皇の子(娘)が継承する形で良いという人たちと変わらない在り様となります。

あらためてリベラルアーツというか、専門教科以外の文化伝統等も含めた「総合的な知」の重要性、文化伝統に向き合う「姿勢」の重要性を実感する次第です。
次世代を担う子供たちに、早い段階で伝えていくことが必要な姿勢とあらためて意を強くします。

シラスと皇位継承に関しては、王位皇位の世襲方法分類:図表も含めてスライド動画説明を Youtube に登録しました。
ぜひご覧いただきたく。

小中学生のための天皇・皇位継承論  1 前半
・小中学生への期待 裸の王様を言うのは子供
・基本と応用、基本が大切
・基本1 王位・皇位の世襲方法分類 直系継承/一系継承
・基本2 王皇制の危険性・リスク 王統断絶・国王処刑・恐怖政治
・基本を踏まえての日本の皇位継承
・皇位は預かりもの 皇位の私物化は許されない 君民共治 シラス

 

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