王位皇位の世襲方法分類 直系か一系か

皇位継承議論をあらためて有意義な形で公論=国民的議論として興していく意味では、今一度基本に立ち返って一から進めていくことが重要と考えます。
今は、
・男系とは
・男系か女系か
・女性と女系の違い
・女系になったら王朝交代で終わり
・Y染色体
などなど、皇位継承議論が右派・左派双方の立場において伝統の昇華である皇室典範の規定(女性天皇:男系女子の排除、養子の禁止等)から逸れた形で歪んでしまっている状況、建設的でない回り道の議論展開になっている状況と見受けます。

そもそも日本の皇位継承の本義とは何か、王位皇位の世襲方法にはどういう分類があってそれぞれどういう特徴を有しているのか。
日本の皇位継承はどの分類に位置し、その継承方法の特徴がいかに日本らしさや和の心に繋がっているのかという客観的な、分類比較論的な捉えがまず重要となります。
今はこうした踏まえがない中での議論、自己解釈による後付け理論による議論が横行している状況であり、そのために天皇の存在が性に着目をする世襲方法を前提としつつ憲法 1条において「国民の“総意”に基く」と規定されているにもかかわらず皇位継承に関する国民的な議論、国民理解は深まっていない状況と捉えます。

王位皇位の世襲方法は、大別して2分類で整理されます。
(各国・各王皇によりそれぞれの背景や独自の在り様もあるとはいえ、分類的には2つに大別されます)
1 性に着目をせず、男でも女でも良いという世襲方法
2 性に着目をして、男→男(父→息子を基本)、あるいは女→女(母→娘を基本)で継いでゆく世襲方法
※人類学の出自捉え・分類においては「単系」「双系」などの分類がありますが、王位皇位の世襲は一般家庭・社会の相続とは異なる公的な意味合いを持つものですので、単純にこの分類を当てはめるのは不相応で、実際上記 1 は広く「直系継承」として認知されています。
一方、本来はこれと対になる性に着目をする継承方法(男性着目に限らず女性着目の世襲もあり)に関しては名称以前に分類捉えの感覚すら乏しい状況となりますので、私はこれを「一系継承」と表現しています。
王位皇位の世襲方法は、大別して直系継承と一系継承の2つに分類されます。
そして一系継承は男系一系と女系一系に小分類されます。

■王位皇位の世襲方法分類
1 直系継承(息子でも娘でも子・孫が継ぐ)
2 一系継承
_2-A 男系一系 父系一系 父 → 息子を基本とする
      息子・男孫がいない場合は弟、甥、叔父、従兄弟等が継ぐ
_2-B 女系一系 母系一系 母 → 娘を基本とする
      娘・女孫がいない場合は妹、姪、叔母、従姉妹等が継ぐ

1 直系継承の文化的な特徴 利権世襲・独占世襲・差別世襲
息子でも娘でも王皇の子(孫)が継ぐという継承方法
理論的な意味での継承者の数が非常に多くなる
(イギリスの王位継承権保持者は5千人以上
 最終的にはほとんどの国民が継承権を持つことも有り得る
 外国人でも多数が継承権を持つことになる)
王位継承者と一般国民の差があいまいになり、実際に今段階で王位にあるかないかそこに近いか近くないかの差になる
傍系移行が起こりにくく近視眼・目先利益発想になりがち
王族皇族間の協力意識、当事者意識は低くなり、王皇の兄弟でも他人事感覚・特権享受姿勢になりがち
(イギリス王室 ヘンリー王子の例など内情は定かでないものの制度論・インセンティブの方向という面からは起こりやすい事例)
王位皇位の「由来」「成り立ちの起点」への着目、重視度は低い
王皇の位が相続物・既得権的、今現在が重要、獲った者勝ち、正義は力・力が正義の近視眼的になりがち
成り立ちの「由来」が重視されないので、現職を倒せば王皇になれると外国も含め(かつての王の娘との婚姻による子孫を名乗り継承権を主張しての)王権争い・戦争を招きやすい
革命で王を倒したリーダーが次の王への就任を要請されるという位置付け(イギリス・清教徒革命リーダークロムウェルへのイギリス議会による国王就任要請 2回など 日本でいう大名・将軍的位置付け)
浮き沈みが大きく人心が離れ王皇の公開処刑、王統断絶・皇統断絶などもあり
当初一系継承でもなし崩し的に直系継承に変わる例もあり
貴族制と繋がりが深く、王皇が貴族利権の維持装置的な意味合いを有する面も持つ
門地特権・利権としての世襲、独占的な世襲、国民との間で差別的・階層分離的な世襲

「民の奔流」の恐ろしさ 王統断絶・国王処刑の西欧歴史

2 一系継承の文化的な特徴 預かり世襲・非独占世襲・非差別世襲
王位皇位の「由来」に着目して重んじる長期視点の継承方法
始祖・初代・建国など王位皇位の起点・成り立ちを重視しその流れ(由来、理念)を引き継いでいこうという継承方法
傍系移行が積極的に組み込まれていて、数世代毎の傍系移行を機に王位皇位の由来を考えることで起点・成り立ちに原点回帰を促す継承方法
過去:先祖と未来:子孫の間に現世:自分たちが位置していて「世代を預かる」という役割を意識する継承方法
起点が男であればその男・父から息子への流れで系統を捉え、起点が女であればその女・母から娘への流れで系統を捉える
性(男/女)の分類でどちらか一つの系統:流れ(父 → 息子/母 → 娘)に限定することで実子がいても他家・傍系への移行が生じ、これにより王位皇位の由来が当世の王皇本人ではなく先代・先々代へと遡る起点からの積み重ねにあると「由来」を意識させ長期視点を喚起する継承方法
系統:流れに沿った子・孫がいない場合は、遡って兄弟姉妹や甥姪、叔父叔母、従兄弟従姉妹等の傍系(他家の子)が継ぐ
(※女系一系の場合は、女王皇に息子がいても継がせずに妹や姪、あるいは叔母・従姉妹に継がせる仕組み)
傍系移行が起こりやすく自分だけでなく子や孫、更にその先の代での傍系移行の可能性も考慮しての判断・行動を誘導する
王族皇族間の協力意識、当事者意識は高くなる
王皇に実の子がいてもその子に継がせずに他家に王皇の位を譲るという意味で、男系一系も女系一系も双方共に非常に抑制的で、王皇(一家)の無私によって成り立つストイックな継承方法
王皇の位を先代、先々代、ひいては初代からの預かりものと捉える長期視点、未来・子孫への責任意識が強い
門地利権・既得権としての門地独占世襲ではなく預かり世襲・非独占世襲となり、国民との間で差別的・階層分離・階層固定的な(上級国民と下級国民を分け固定化するような)世襲とならず、生まれ差別禁止・門地差別禁止と根本矛盾しない

※男系から女系に、女系から男系に(始祖・初代等の起点を一人にしながら)途中で変わることはない
男系一系と女系一系を比較して男系一系の優位を見出す必要、説明する必要はない
男は種、女は畑などナンセンス、Y染色体論も無用
女系一系継承も男系一系と同様にストイックで価値ある継承方法となる

日本の皇位継承は一系継承ベースの預かり世襲・非独占世襲・建国の由来を重んじる世襲であり直系継承との比較において和的な特徴がありますが、純粋な一系継承ではなく女性天皇や南北朝の分裂など時代の状況(天皇親政・同族婚で権力闘争に身を置く立場等)において例外もありました。
過去の礼賛、無謬論ではなく、歴史の反省・教訓等も踏まえつつ一系継承・預かり世襲・非独占世襲の質を高めて来た歴史であり、明治の立憲君主制・皇室典範の制定によってようやく純粋一系継承が可能となった伝統の昇華段階となり(0歳即位の国家法制的な保障により近親女性による繋ぎの地位保全即位も無用になった)、日本国憲法・皇室典範においても引き継がれています。
こうした先人の営みに感謝と敬意を抱きつつ、厳粛な気持ちで受け継ぎ未来に渡していく役割意識、責任感こそが重要で、万世一系の本義もそうした未来志向のものとなります。

日本の皇位は時の天皇・天皇一家の利権・既得権・門地特権ではないので娘は継承出来ず、天皇の長男・一人息子でも継承出来ないケースさえあります。
また皇族身分という意味でも一般国民との結婚により皇族女子は降嫁・皇籍離脱となり、一般国民女性でも皇族との結婚により皇籍を取得して皇族となる規定であり、皇族の利権・世襲特権としては位置付けられていません。
天皇・皇族が門地独占的な特権存在ではなく数世代を経る中で皇位も宮家・皇族身分も移り変わっていく仕組みであるが故に「君民一体」「君民共治」が成り立ち、「象徴」として「国民の総意」に基く存在となり得るのです。

女性宮家や皇籍離脱後の「皇女」扱いなどは、門地利権・特権世襲化そのものであり、預かり世襲・非独占世襲により階層の固定化を防ぐ高度な枠組みを崩し、門地差別禁止に根本から反する特権階級として位置付ける改変となります。
また現在旧宮家子孫からの皇籍への組み入れに反対する理由として、今の皇室・天皇から血筋が離れ過ぎている(=同一門地とは捉えられない)と主張されていますが、これは逆に一系継承(大傍系への移行も含めて組み込まれている)が門地特権・門地差別でないことの証、現行法制の枠組みの高度さを示すものとなります。
天皇が皇位を私物化しない、皇族が宮家・皇族身分を利権・世襲特権として独占しないからこそ象徴足り得、国民の総意に基く存在となるのです。

シラスと皇位継承 シラスが成り立つのは無私抑制の一系継承:傍系移行=天皇の国譲りによってこそ

万世一系は過去の礼賛、無謬論ではなく現世を縛り未来に和の普遍理念を繋ぐ美称表現

憲法1条の意味、重み

あらためて、平成、令和における皇位継承議論の本質は「男系か女系か」ではなく「一系か直系か」となります。
すなわち「一系継承:預かり世襲・役割世襲・非独占世襲を守り続けるのか、直系継承:利権世襲・独占世襲・差別世襲に変えるのか」こそが論点であり、「和」を尊重し受け継ぐのか捨て去るのか、「天皇」の地位・意味合いを根本的に変える(利権存在・特権階級にする)のかが皇位継承議論の本質、究極的選択となります。
女性と女系の違い、女系になったら終わりではなく、男系女子の女性天皇(女性宮家・皇女制等含め)=直系継承自体や養子が皇位・宮家・皇族身分の私物化・利権世襲・門地独占の差別的世襲として排除されているのが、先人の積み重ねを踏まえた伝統の昇華足る皇室典範の規定=純粋一系継承であり、先人の英知、戒めとなります。
これを変えるということは、天皇も西欧の王皇同様に分捕り物の存在、成り立ちの由来に依拠しない特権存在に変わるということであり、力でその地位を奪われる存在になるということです。
建国の「和」、シラス、民のかまどの理念とはかけ離れた存在、由来を引き継がない存在は、天皇の直系子孫であっても本来的な意味で天皇とは見なされない存在、地位になるということで、象徴でも国民の総意に基く存在でもなくなることは必至です。

過去に例があれば今もやってよい というのは先人の営み積み重ねを蔑ろにする伝統破壊

直系継承と一系継承の相違、文化的な特徴を分類比較論として踏まえることによって、あらためて日本における皇位継承の意味、過去における例外の背景(純粋一系ではどうすべきだったか、なぜ出来なかったのか等)やその変遷に込められた深慮が見えてくるものと思います。
あらためてここを土台、基点としつつ、皇位継承議論、和の文化論、国の建て直し論を進めていきたいものと思います。

王位皇位の世襲方法分類に関しては、図表も含めたスライド動画説明を Youtube に登録しました。
ぜひご覧いただきたく。

小中学生のための天皇・皇位継承論  1 前半
・小中学生への期待 裸の王様を言うのは子供
・基本と応用、基本が大切
・基本1 王位・皇位の世襲方法分類 直系継承/一系継承
・基本2 王皇制の危険性・リスク 王統断絶・国王処刑・恐怖政治
・基本を踏まえての日本の皇位継承
・皇位は預かりもの 皇位の私物化は許されない 君民共治 シラス

 

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