男系で繋がっても許されない皇位継承とは何か

今は男系派の軽薄な動きによって皇統護持・伝統護持が後退の局面、そうした懸念のある状況と捉えます。
具体的には現行法制:皇室典範の規定である女性天皇(男系女子)の排除(一般男性との結婚で皇籍離脱)、養子の禁止がなし崩しの形で、“男系継承を維持する”という名目のもとに女性宮家・内親王の結婚後の公務継続等も含めた直系による私物化・利権化(憲法14条 門地差別禁止の理念に反する特権化)の方向で改変されようとしている状況です。

現行法制:皇室典範の枠組みを解さず軽視して安易に変えてよいという意味において男系派は決して皇統護持派・伝統護持派ではなく、女性女系派(直系派)と同じく伝統破壊側となります。
言わば
伝統破壊A VS 伝統破壊B
という図式が男系派と女性女系派(直系派)の対立構図であり、皇統・伝統を守る話とは別のステージでの係争(場外乱闘的、どうでも良い低いレベルでの争い)となります。
この点の認識、区分け、吟味こそが重要となります。

現行法制:皇室典範の基本的な枠組みの意味を理解することの出来る者、伝統の昇華・先人の思考経緯・国民の総意をなぞれる者、説明出来る者が保守伝統派となります。
本来の対立構図は以下のような形にて。

皇室典範尊重派    VS 皇室典範軽視派
伝統護持派(一系派) VS 伝統破壊派(男系派/女性女系派・直系派)

今は、伝統の昇華である国民の総意・現行法制:皇室典範の基本的な枠組みとなる女性天皇(男系女子)の排除・養子の禁止の意味を解さぬ男系派の浅はかな動きにより、伝統を歪める直系派の思惑に乗せられる形で法制の改悪が進められようとしている局面と見受けます。

具体的には以下の点です。
・女性天皇(男系女子)は一代限りなら良い
・養子も良い(旧宮家の子孫を今の宮家の養子に、当人には継承順を与えず次に生まれた子から継承順を付与)
・女性宮家や皇女制も皇位継承に絡めなければ良い

※「護る会」もそうした部類(養子積極、他も明確性なく)ですし、旧宮家子孫の評論家等も同様の立場です

男系とは何か(父をたどって神武天皇に行き着く)を知ることと、日本における皇位継承:一系継承の意味・本義・現行法制を解することは別です。
「万世一系」であり「万世男系」とは言われないことからも分かりますが、皇位継承:一系継承は男系で繋がればよい、女系にならなければよいという継承方法ではありません。

先人の営み、積み重ね、伝統の昇華はそのようなレベルの低いものではありません。
神武一系(男系)を必要条件としつつ、それだけではない要素:十分条件の和を高めて来た歴史となります。
皇統からこれを読み解けず、「男系継承は一度も例外なく続いてきた」「皇位継承の本義は男系だ」というのはあまりにお粗末な考察であり、かえって皇統議論を歪めるもの、議論の水準を低めるものとなります。

保守を自認する男系派は、あらためて
「男系で繋がっても許されない皇位継承とは何か」
を考え直すことが必要と考えます。

「男系で繋がっても許されない継承とは何か」という視点で皇統、皇位継承の歴史をあらためて見つめ直すと、男系では繋がるものの排除されてきたやり方・考え方が見えてきます。
また、過去に例があっても教訓例として踏襲出来ないものとされた継承も見えてきます。
高められてきた要件、現行法制の意味が見えてきます。

過去に例があれば今もやって良いというものではありません。殺し殺され、道鏡事件、南北朝の分裂、尊号一件等の歴史も含めての過去であり、人間の営みですので過ちもあります。無謬論で礼賛出来るものではなく、まただからと言って価値が損なわれるものでもありません。過去の教訓を踏まえつつ高めて来た歴史、先人の積み重ねこそが掛け替えのない資産であり誇りとすべきところとなります。
皇位継承に限らず、伝統の変遷、何を変え何を変えないで来たか、いかに高められて来たかの中身を見ず、解さずに、過去の例を理由に現在に再現しようというのは、決して伝統を踏まえた考え方ではなく、先人の積み重ねを蔑ろにする浅はかな積み木崩しの所業となります。

そうした視点であらためて皇位継承を捉え直すことが重要です。

* *

基本と応用、基本が大切。
皇位継承の理解においても、まずは基本となる「王位皇位の世襲継承方法分類」を把握することが重要です。

王位皇位の世襲方法分類 直系か一系か

■王位皇位の世襲方法分類
1 直系継承(息子でも娘でも子が継ぐ) 門地独占世襲・利権世襲・差別世襲
  利権の”相続”・私的感覚要素が強い
2 一系継承 非独占世襲・預かり世襲・非差別世襲
  抑制的・ストイック・和的・高度な”公”意識
_2-A 男系一系 父系一系 父 → 息子を基本とする
      息子がいない場合は弟、甥、叔父、従兄弟等が継ぐ
_2-B 女系一系 母系一系 母 → 娘を基本とする
      娘がいない場合は妹、姪、叔母、従姉妹等が継ぐ

直系継承と一系継承の文化的な相違、それぞれの特徴を認識して、まずは基本形の一系継承、純粋一系継承を理解することが重要です。

基本の純粋一系継承を踏まえて、実際の皇統、皇位継承の流れを見ると、どこでどう基本とずれているかが分かります。
無謬論では捉えられないことが分かります。
時代状況の相違があるにしても、皇統伝授という意味では許されない・教訓とすべき継承事例があることも見えてくるはずです。

その当時の時代背景を踏まえ、皇統、天皇の役割・位置付け自体が変遷してきている状況、現在とは土台が異なっている状況が見えてきます。
何を変え、何を変えないか、一貫しているもの、高められてきているものが見えてきます。
皇位継承における必要条件と十分条件が見えてきます。
過去に例があれば今もやって良いというものではないことが見えてきます。

逆に、こうした点が見えてこないなら、基本の理解が浅い、そもそも伝統の捉え方、先人の営み・蓄積と向き合う姿勢に歪みがあると自覚するのが相応しいものと考えます。

万世一系であり万世男系ではない

過去に例があれば今もやってよい というのは先人の営み積み重ねを蔑ろにする伝統破壊

男系派に足りないのはこうした基本捉え、伝統への向き合い方の踏まえです。

いわゆる歴史オタク、色いろ知っている・研究しているということと、皇統・伝統を理解出来るということは同じではありません。
現に、現行法制:皇室典範の枠組みである女性天皇(男系女子)排除(一般男性との結婚で皇籍離脱)、養子禁止に至った歴史の変遷、何を変え何を変えないかという高度な純粋化・昇華、そうした先人の思考をなぞれない、理解出来ない程度の歴史認識、統合感覚しか持ち得ていない歴史好きも多々です。
女性と女系の違い、女系になったら王朝交代で終わりという男系派は、こうしたタイプがほとんどとなります。

「男系継承(男系・男系男子で繋がれば良いという継承)は卑しい継承」
これが歴史、伝統の変遷・昇華から見えてくるものです。
日本の皇位継承、一系継承の枠組みは、男系で繋がれば良い、女系にならなければ良い(女系になったら王朝交代で終わり)というものではありません。
男系男子で繋がれば良いというものでさえありません。

現行法制、日本国憲法・皇室典範においては、天皇・皇族における”門地的な位置付け”は非常に限定的です。
娘には皇位を継がせられませんし、それだけでなく結婚により降嫁=皇族の立場・身分さえ離れるという規定です。
また、娘に限らず天皇の長男・一人息子でも一生天皇になれないことさえある規定です。妊娠時崩御の場合、胎児の継承は優先・猶予されません。

天皇の長男でも天皇になれない妊娠時崩御 家督・相続物でない証左

また、養子も禁止となっています。
これは、皇統外(神武男系男子以外)の者を婚姻によらぬ形で皇族・皇位継承者にしないというだけではなく、徳仁天皇が悠仁親王を養子にすることも含めての禁止です。“男系男子”“Y染色体”“皇族”による継承でも、養子による継承は許されないというのが現行の規定であり、天皇家・宮家に門地的な特権(養子による”家”の存続)を認めないという非常に抑制的・ストイックな枠組みになります。

皇室典範によって、過去の皇位継承で再現出来なくなっている継承があります。
第118代後桃園天皇から119代光格天皇への継承は、卑しい男系継承の典型(直系女子の婚姻と絡めて養子、一代飛ばし、神武由来の男系男子継承者を時の天皇直系の利権化のために便利道具扱い、後に起こるべくして尊号一件)であり、現代に再現は出来なくなっています。
これが伝統の変遷、昇華であり、男系という必要条件に加えての十分条件:和の質の高め(継承順の事前明確化、婚姻無用、一代飛ばし・長兄飛ばしの抑止等)となります。

こうした伝統の昇華を踏まえた非常に限定的な門地的位置付けだからこそ、日本国憲法においては、天皇・天皇の地位・その地位の継承たる皇位継承・皇族の位置付けは憲法14条 門地差別禁止の理念に根本矛盾するものではなく「象徴」「国民の総意に基く」が成立するとして規定されている形になります。
これを門地による特権化、門地による終身利権化の方向で皇位・皇族身分の位置付けを広げることは、憲法14条 門地差別禁止の理念に反するだけでなく、憲法1条の「象徴」「国民の総意に基く」の前提を崩すものとなります。

特に、結婚降嫁により皇族でなくなったにもかかわらず皇室公務を担うという「皇女」は、憲法14条 門地差別禁止の中で特別に具体的禁止事項として明示的に”認められない”とされいる 2項「その他の貴族の制度」そのものであり、皇室・皇族が憲法に反して身分を終身利権化・門地特権化しようとしていると見なされる非常に卑しい位置付け、革命をも助長する危険な私物化論となります。
(憲法14条 2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。)

皇女に限らず、皇位継承に絡めない=皇位継承資格はなしという位置付けながら結婚しても降嫁せずに皇族として留まるという女性宮家の女性皇族も、通常の皇族身分とは異なる「新皇族」といった意味で憲法14条 2項が禁ずる「他の貴族の制度」に該当し、またその夫・子も皇族でないにもかかわらず皇族の家族として宮邸に住まうという意味で「他の貴族の制度」に該当し憲法に反するものとなります。

そして女性天皇そのもの、男系女子による即位、天皇の娘だから皇位を継ぐのが当然という直系継承論も、現行法制における非常に限定的な門地的位置付けを改変して門地を利権として拡大する意味において憲法14条 門地差別禁止の理念に反するもので、天皇の位置付けの根幹となる憲法1条「象徴」「国民の総意に基く」の前提を崩すものとなります。

伝統の昇華、現行法制の枠組みを理解出来ずに軽視し、自分論理で変えてよいという姿勢において、男系派は女性女系・直系派と変わらない在り様となります。
実際、皇統議論を歪め、質を落とし、現実的に皇統破壊・伝統破壊を女性女系・直系派に乗せられる形で進めようとしているのは男系派そのものとなります。

※男系派は後世においては「時代のあだ花」、滑稽存在として戒めの対象になるものと捉えます
平成・令和の皇位継承議論において、保守・伝統派を自称しながら当時の法制:皇室典範の規定の意味を解さず変えてよいと主張する革新派・伝統軽視派が男系派であり、建設的な皇統議論・対立構図を歪める存在であった
など

あらためて、基本に立ち返った議論、進め方が必要であり、有効と考えます。

そもそも天皇は何のためにいるのか、今現在も憲法に規定する形での位置付けが必要なのか、どう国民の暮らしに繋がっているのか。

憲法1条の意味、重み

また、究極例を考えること、基本を踏まえての応用の粋を確認することが重要です。

究極例:東京隕石衝突における皇位継承

世襲親王家に見る先人の深謀遠慮、卓越

そもそも万世一系の本質は未来論となります。

万世一系は過去の礼賛、無謬論ではなく現世を縛り未来に和の普遍理念を繋ぐ美称表現

「和」とは何か。
初代神武天皇による日本の国づくりの根幹理念とは。

ウシハク:力は正義、正義は力 とは別に、
シラス:和、理念の感化共有により共感・合意に基づいてものごとを進めていく在り様。

「民のかまど」の例に見られる様に、天皇や既得権層が富・権力を独占せずに国民の生活・暮らしが豊かになるように、民からの収奪体制とは対極の形で国民生活の総体が向上する国家運営の在り方という意味での「君民共治」「君民一体」が和、シラスとなります。

いつの時代も権力層、既得権層はいるものですが、それが固定化しないように、民からの収奪・奴隷化での近視眼・短期利益感覚ではなく長期視点で永続的な富、豊かさを目指す抑制、開明を心得るようにという意味では、天皇自身の無私・抑制、その示しが重要となります。
その究極的な示しが、皇位を私しないで余力を持って傍系に渡す一系継承・傍系移行となります。地位を世襲利権化・門地特権化しない皇族女性の一般男性との結婚による皇籍離脱も同様です。
これらの非常に限定的な”門地的位置付け”(門地利権存在とは別もの)があってこそ、憲法14条 門地差別禁止の理念に根本矛盾しない、憲法1条の「象徴」「国民の総意に基く」が成り立つのです。

天皇が最高最大の感化役として私物化・近視眼の戒めを示す傍系移行、すなわち天皇による神武他系への「国譲り」こそが和、君民共治のシラスを担保し、永続足らしめる奥義となります。
そうした深い知恵に基づき、皇位継承:一系継承の和、十分条件を高めて来たのが日本人、先人の歴史、積み重ねとなります。

シラスと皇位継承 シラスが成り立つのは無私抑制の一系継承:傍系移行=天皇の国譲りによってこそ

あらためて、
・皇位は預かりもの
・皇位の私物化は許されない
・皇位は時の天皇一家の私物・門地的利権既得権・家督相続物ではない
・皇位の由来は時の天皇・その先代ではなく、初代神武天皇・和の国としての建国とそこからの繋がりにある
・皇位を私物化せずに余力を持って(娘がいても娘に継がせず、場合によっては長男にも継がせず)傍系他家に渡す抑制的でストイックな継承方法・傍系移行により、国として長期視点を取り戻す「和の原点回帰」の機能が組み込まれているのが一系継承
・利権固定化のない「和」「民のかまど」「君民共治」「シラス」の国の在り方、運営こそが重要でそのために天皇が存在する
・皇位・皇族身分における門地的な位置付けは非常に限定的で特権的・利権的な扱いとはなっていない
・抑制的でストイック、和的な存在、卑しくない位置付けだからこそ、憲法1条で「象徴」「国民の総意に基く」と規定されている(憲法14条の門地差別禁止と根本矛盾しない位置付け、天皇・皇族は例外・飛び地などではない)
こうした基本、先人による伝統の昇華を再確認し、皇統・皇位継承を再確立することが重要と考えます。

具体的には、旧宮家子孫からの皇籍への組み入れ・宮家設立(養子ではなく、組み入れ当人に皇位継承順を割り振る形で)による皇統バックアップの拡充です。

旧宮家子孫等の皇籍への組み入れ・宮家の並立並走こそが制度的に安定的な皇位継承システムになるとの理解には、究極的な限界事例として以下のような皇族全滅のシミュレート・思考演習・思考訓練をしてみることが有意義です。

究極例:東京隕石衝突における皇位継承

女性天皇・女性宮家・皇女等は不要(むしろ卑しい世襲利権化・門地特権化、憲法14条門地差別禁止の理念に反する)との再確認にもなります。

皇位継承の再確立により皇統が安定したものとなり、これが基盤となって和の国づくり、日本の建て直しも進められるようになります。
早くこうした建設的な議論を進めていきたいものです。

男系で繋がっても許されない継承に関しては、図表も含めたスライド動画説明を Youtube に登録しました。
ぜひご覧いただきたく。

小中学生のための天皇・皇位継承論  1 前半
・小中学生への期待 裸の王様を言うのは子供
・基本と応用、基本が大切
・基本1 王位・皇位の世襲方法分類 直系継承/一系継承
・基本2 王皇制の危険性・リスク 王統断絶・国王処刑・恐怖政治
・基本を踏まえての日本の皇位継承
・皇位は預かりもの 皇位の私物化は許されない 君民共治 シラス

小中学生のための天皇・皇位継承論 1 後半
・継体天皇 手白香皇女
・推古天皇 蘇我馬子
・光格天皇 後桜町天皇
・明治の皇室典範 高度な昇華
・憲法1条 象徴 国民の総意に基く
・憲法2条 世襲 皇室典範
・旧宮家子孫から皇籍に組み入れ・宮家設立

「男系で繋がっても許されない皇位継承とは何か」への2件のフィードバック

  1. 恐縮なのですが、コメントさせていただきます。昨日、遅まきながら貴ブログを知り、ざつと拝読し、御見識・知識のレヴェルの高さに驚きました。大嘗祭が過ぎ、ここ数日、「護る会」提言、甘利発言、二階発言と続き、どうやら大きな動きがありさうです。

    ブログ、Twitterともに、勉強させていただきたく存じます。ブログは拡散(といつても今の私のフォロワー数では、ただの「シェア」に過ぎませんが)させていただければと存じます。

    御指導のほど、何卒よろしくお願ひ致します。

    1. ご覧いただきましてありがとうございます。
      こちらこそよろしくお願いします。

      一系継承の本義は「和」に繋がるものであり、だからこそ憲法1条において天皇の地位は「国民の総意に基く」と規定されている。
      非常に重い位置付けで。
      「女性と女系の違い」「Y染色体」などとは別に、こうした論を伝えていくことで皇統理解、そもそもの天皇の意味・位置付けの理解に繋がり、皇位継承論も自ずと収まるところに収まっていく形になると思います。
      当然ながら、旧宮家子孫からの皇籍への組み入れ・宮家設立(養子は無用、組み入れ当人に皇位継承順を割り振る形)にて。

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