天皇の長男でも一生天皇になれないのは妊娠時崩御の場合です。
崩御した天皇の子が胎児の場合において生まれるまで一時的に代替わりを猶予しないのは、皇位が高度に公的なものであり私的な相続物ではないことの証左であり、一系継承の本質を示す究極例となります。
「護る会」 皇室典範の無理解・軽視で心許なく 2019年10月27日
国連、外国人の女性天皇質問に際しての応答例 2019年11月3日
の投稿にて以下の Q:質問を示しました。
Q 日本の皇位継承、一系継承においては天皇の娘が皇位を継げないだけでなく、天皇の長男・一人息子でも一生(100歳まで生きても、150歳まで生きても)皇位を継げない場合があります。
これはどういう場合でしょうか。
(皇位継承制度の理念・趣旨に基くもので、個別の属人的事情に伴う皇室典範3条:いわゆる廃太子条項による例とは別の場合です)
この答えが本投稿となります。
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現行憲法体系・法制:皇室典範においては、皇嗣が0歳の場合でも直ちに即位するという規定になっています。
一方で、胎児の場合に皇位の移行:代替わりを猶予する規定はありません。
これは法の抜け穴、想定外の不備などではなく和の高度な凜・仁と”天意従容”を示すものであり、粛々と法の理念、条文に基いて継承:代替わりを進めるべしとの意味合いになります。
(子が生まれてからの崩御ならば0歳でも即位、子が生まれる前の崩御ならその子にはその時点における皇位の縁はないという天意の捉え方により、現実を従容と受け止め粛々と皇位を傍系に渡す無私抑制の仁和という価値観です。)
分かりやすいようにという意味であえて現状に即してシミュレートをしてみます。
1 雅子皇后が妊娠をしたとします
(皇室典範10条における「立后」の皇室会議の議を経ていませんので法的には皇后と見なし得ない問題はここでは置くとして)
2 公式に発表があるかどうかは別として、今の医学ならば妊娠のある程度の段階になれば胎児が男か女かが分かります
3 胎児が男であり、天皇や政権側はこれを認識していたとします
4 妊娠が進みやがて生まれる段階になってきたとします
5 生まれる前の段階で徳仁天皇が崩御したとします
この後、現行の憲法体系、皇室典範の規定においては、以下の流れとなります。
6 皇室典範4条「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。」に基き皇嗣秋篠宮(文仁親王)が即位します
(胎児は現実に生まれていませんので男か女かも公式の確定は出来ませんし実際に生きて生まれてくる保証もなく、この時点で皇族・継承順にはカウントされません)
7 文仁親王の即位に連動して悠仁親王が継承順1位:皇嗣:皇太子となり、紀子妃が皇后となります(皇室会議の議を経るとして)
8 常陸宮:正仁親王が皇位継承順2位となります
9 やがて雅子皇太后が出産をし男子が生まれたら、その男子(前天皇:徳仁親王の長男)は皇位継承順2位となり、常陸宮:正仁親王が皇位継承順3位となります
10 その後、皇太子悠仁親王が結婚し男子が生まれると、長男が皇位継承順2位、次男以下が3位、4位…となり、前天皇:徳仁親王の長男はそれに次ぐ継承順となります
11 その後、皇太子悠仁親王が即位するとその長男が皇嗣:皇太子になりその後を継いでいくこととなります
12 こうして徳仁親王の長男は長生きしたとしても一生天皇になれないままとなるケースがあります
(仮に悠仁親王に男子が生まれない場合は、徳仁親王の長男への傍系移行となり天皇となるケースもあり得ます)
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天皇の娘が天皇になれない、愛子さんが天皇になれないのはおかしい、女性差別・女性蔑視だという声もありますが、天皇の長男でも(長生きしても)天皇になれないケースがあるのが日本の皇位継承、一系継承の枠組み・理念となります。
これは男女差別や女性蔑視では説明が出来ず、もっと別の論理・理念で天皇・皇位継承の枠組みが決められていることの証左となります。
天皇の長男ですから当然ながら男系で、天皇のY染色体を持つ形になりますが、それでも継承、即位は出来ない形となります。
女性と女系の違い、Y染色体、女系になったら終わり…などの論ではこの継承例(天皇の長男排除)の理由が説明出来ず、いかにそれらが的外れな論であるか、一系継承の本質を示す論でないかが如実になるのがこのシミュレートとなります。
現行法制:皇室典範において、女性天皇も養子もなしとされているのは理由があってのこととなります。
皇室典範の規定を重んじ(安易に変えようとせず)、このシミュレート(男系で繋がればよいというものではない)を提示出来る者こそが保守派・伝統派となります。
皇位は高度に公的なものであり、一時も空位・空白には出来ません。
かつての「即ち践祚(せんそ)し」という概念は天皇の存在・皇位継承とその昇華を捉える上で非常に重要なものとなりますが、文言を変えつつも意味合いはそのままに現在も踏襲されて「直ちに即位する」と規定されています。
この規定は非常に意味の重い、厳然たる(シビアな)ものであり、胎児が生まれるまでの間も猶予せずに、直ちにその時点での皇嗣が即位するという形・流れ・運用となります。
皇位が私物、相続物、家督ならば、胎児が生まれるまで待つ、あるいは暫定継承としておきつつ生まれたらあらためて生まれた子が正式に継ぐなどのやり方となります。
実際、西欧の王室では憲法レベルで胎児の継承権を保障している例もあります。(ノルウェー王国)
西欧の国王の位置付け・王位継承の意味合いと日本の天皇の位置付け・皇位継承の意味合いの相違が如実に表れるのがこの問題、シミュレートとなります。
即ち、家督・相続物・一家利権かそうでない預かりものかの相違です。
日本の皇位は時の天皇の私物、門地利権、直系の既得権、相続物、家督などではなく、初代神武天皇からの「預かりもの」となります。
先代、先々代から受け継ぎ、一時的に預かっているのが時の天皇という位置付けです。
実際、現行法制における天皇・皇族・宮家の門地的な位置付けは非常に限定的となっていて、門地特権・直系利権というような枠組みにはなっていません。
憲法14条の門地差別禁止の理念と根本矛盾しない地位だからこそ憲法1条で「象徴」「国民の総意に基く」と規定される存在になり得るのです。
天皇・皇族を安易に憲法の例外・飛び地論などで捉えるのは不相当です。こうした捉えでは、”飛び地”を言い訳にしての門地利権化・直系利権化=女性天皇(娘継承)、女性宮家・皇女制、養子などの論を助長しかねません。
天皇でさえ皇位を私出来ない、実子に相続させられないというケース:傍系移行が出てくることにより、皇位の由来を国家的に考え直す機会を不定期ながら持つことが出来るのです。
この傍系移行の機会により、初代神武天皇から預かっているものは何か、建国の和とは何か、憲法において国民の総意に基くと規定し得る普遍的な理念・価値観とは何か、現代においてどのように活かし具現化すべきか、ということをあらためて考え直すこととなります。
既得権・既得構造は固定化させてはいけない、民のかまど、君民共治の本質を現在に活かし具現化することが重要、といった温故知新、原点回帰が為されることとなります。
これこそが天皇存在、一系継承の本義=和の永続装置となります。
(西欧王室の王は国民に処刑されたことがあるのに対して、日本の天皇が国民に処刑されないできた根本的な相違は、既得権王・私物化存在と見なされない「君民共治」の理念とその担保となる抑制的な一系継承となります。)
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「手品の種明かし」の後のように国民理解は急速に進む 皇位継承問題 2019年10月29日
>皇位継承議論においても同様に種明かしがされその本義が明らかになると、その理念に基いた形で一つ一つの規定等(女性天皇排除、養子禁止等)の意味や相互の繋がりが自然と見えてくるようになり、国民理解は急速に進み議論は収斂していくものと予想します。
先に上記のように投稿しましたが、皇統・皇位継承論における「手品の種」が本投稿となります。
制度の究極例にその根本、本質が表れるという形で、皇統原理、天皇存在の意味、憲法において「象徴」「国民の総意に基く」と規定され得る理由が示されています。
一方で、「裸の王様」とそれを当たり前に捉える国民、そうした意識の中では、「手品の種」の意味が分からず、相変わらず裸の王様をそれでよいもの、当たり前なことと見続けることとなります。
「種明かし」と共にいつの段階で意識の呪縛から離れて本義が見えるようになるか、その進展局面が今後の鍵となります。
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天皇の長男でも天皇になれない妊娠時崩御に関しては、図表も含めたスライド動画説明を Youtube に登録しました。
ぜひご覧いただきたく。
小中学生のための天皇・皇位継承論 1 後半
・継体天皇 手白香皇女
・推古天皇 蘇我馬子
・光格天皇 後桜町天皇
・明治の皇室典範 高度な昇華
・憲法1条 象徴 国民の総意に基く
・憲法2条 世襲 皇室典範
・旧宮家子孫から皇籍に組み入れ・宮家設立